「母語の絵本について考える会」では、母語の絵本が出版・制作され、普及していくことを目指しています。
それらを検討していくに際し、私たちは、日本に暮らす外国人親子が、絵本をどのように読んでいるのか、絵本の言語についてどう感じているのかなど、当時者の声を聞くことを大切にしたいと考えました。
そこで、2025年1月に開催した第2回「母語の絵本について考える会」では、中国、ベトナム、ネパール、インドネシア、ブラジルから日本へ来て子育てをしている保護者の方に集まっていただき、ご意見を伺いました。
―――
●母語を大切にしたいので、中国語で絵本を読んでいます
中国人保護者のヤンさんの家には、中国語の絵本が並んでいて、日本の絵本も、中国語に翻訳されているものを揃えています。
「日本で生活していれば、子どもは自然と日本語を学びますが母語も大切にしたいので、家庭では中国語で会話をしています。だから、絵本も中国語で読んでいます」とヤンさん。
「寝る前によく絵本を読んでいて、2歳半になる子どもが自分で選んだ絵本を、『読んで!』と言ってくることもあります。絵本は生活の中で大事なものになっています」
●日本語・ベトナム語、両方の言葉を伝えたい
「絵本に描いてあるものを、日本語とベトナム語それぞれで、どのように言うかを教えたいです」と話すのは、ベトナム人保護者のチャーさんです。
「子どもがこれから日本で生活する中で困らないように、先生や友達が何を言っているかが理解できるように、日本語でどのように言うかも知っていて欲しいです」と、一つの絵本で、日本語とベトナム語の両方の言葉を伝えたい、と話しました。
また、ベトナムでは、絵本を読むことに対して、教育的な目的を求める傾向があることも教えてくれました。
●意味が分からないながらも日本語で絵本を読みました
ネパール人保護者のザヤさんは、子どもが生まれた頃、ひらがなやカタカナは読むことができたので、日本語の絵本を、意味がわからないながらも、頑張って日本語で読んでいました。
やがてお子さんが保育園で言葉を覚えてきて一緒に読むことで、絵本に書いてあることの意味がわかった、と言います。
「絵本の文章が『やさしい日本語』で書かれていたり、ネパール語の翻訳が入っていると助かる人も多いと思います」と話すザヤさん。
一方、ザヤさんは、例えば「かわいい」のような日本語を絵本を通して知ることで、どんな意味なのか、どんな時に使うのかを学ぶことができるので、「絵本は、日本語について学ぶきっかけにもなります」と話しました。
●絵本から、挨拶や日本の習慣を学びました
インドネシア人保護者のアロさんも、ザヤさんと同じように、インドネシア語の翻訳が載っていると嬉しいとのことでした。
アロさんは、「子どもにとって絵本は大事です」と言って、次のように話しました。
「子どもたちは、絵本から色々な日本の習慣を学びました。『おはようございます』『こんばんは』という挨拶や習慣、『ありがとう』という感謝の伝え方、それから、警察官や消防士といった職業も知ることができて、私も子どもたちも、絵本を読むことでたくさん助けられました」
●ブックスタートで絵本をもらった時、他の外国人保護者が寂しそうでした
ブラジル人保護者のカリネさんは、日本語をおおむね理解できます。
普段は、毎日のように、1歳半のお子さんと日本語の絵本を日本語で楽しんでいます。
カリネさんがブックスタートで絵本を受け取った時のことです。
同じ会場にいたネパール人の保護者が、「絵本をもらったけど、日本語を読めないので内容がわからない」と言いました。
そこでカリネさんが、「赤ちゃんに絵を見せながら、自分の言葉で話せばいいのよ」と説明したところ、「そうだね」と答えたものの、少し寂しそうな様子だったといいます。
「読めない言語の絵本をもらうことで、言葉の壁を感じるのではないか」とカリネさん。
「だから、母語に翻訳された絵本をブックスタートでもらったら、とても嬉しいと思う。ただ、その後に、もっと母語の絵本を読んでみたくなっても、書店に売っていなければ、さらに悲しくなってしまうのではないかと思う」
Q.どんな内容の絵本がほしいか?
質疑応答の様子
質疑応答では、「どんな内容の絵本があったらよいですか?」との質問に、ヤンさんとチャーさんが答えてくれました。
お子さんを中国語で育てているヤンさんは、「外国人の子どもが保育園に入る物語の絵本が欲しい。外国人だから言葉が通じないということを、保育園のお友達に知ってもらえたら嬉しい」と言いました。
ベトナム人のチャーさんは、「絵本に、日本の食べ物だけでなく、ベトナムの食べ物も描かれているといいなと思う」と話しました。絵本に両方の国の食べ物が描いてあると、お子さんが、どちらも好きになるのではないかということでした。
―――
今回、様々な視点から、お子さんの健やかな成長を願う外国人保護者の皆さんの、絵本に対する思いや期待を知ることができました。
それらをしっかりと受け止めて、日本に暮らすすべての親子が絵本を楽しむために何ができるのか、これからも考えていきたいと思います。
***
連載「母語の絵本について考える」
▼連載「母語の絵本について考える」その他の回を読む
1.様々な分野の方々と共に、母語の絵本の出版・制作・普及について考える場を立ち上げました
2.母国を離れての出産、子育て~外国人女性の現状
3.子育て中の外国人保護者にインタビュー※本稿