第1回目の「母語の絵本について考える会」では、特定非営利活動法人 Mother’s Tree Japan 事務局長の坪野谷知美さんに、外国人女性の出産・子育ての現状についてお話しいただきました。
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異国での妊娠、出産は、想像以上のストレス
日本には、さまざまな外国の方、特に若年層の方が多く来日しています。そうした方たちは、日本で働きながら、結婚、妊娠、出産をして、子育てをスタートさせています。
妊娠、出産は日本人でも大変です。ましてや言葉や文化の違い、母国を離れての妊娠、出産は、想像以上のストレスがかかります。
私たちは、そうした日本に暮らす外国人女性が、安心・安全に妊娠期を過ごし、出産をして、子育てができるように、病院等への付き添い・通訳、LINE相談、オンライン相談会、勉強会などの活動を行っています。
活動には、助産師、保健師、保育士などの専門家のほか、日本での出産、子育てを経験した外国人のママたちが携わっています。
外国人のママたちは、単なる通訳としてではなく、当事者の一人として、自分たちが経験した苦労を後輩にはしてほしくない、という思いで関わっています。
イラストを指で差して体調を伝える「お産ボード」など、多言語の資料を無料で提供
病院等への付き添い・通訳では、外国人のママたちが、病院の先生に聞きたいことをきちんと聞けて、安心して出産に臨めるように寄り添うことを大事にしています。
LINE相談では、専門家が、通訳を介して様々な相談に応えます。
病院の選び方、つわりへの対応といった妊娠期に関する質問、出血、お腹の張り、入院のタイミングなど出産にまつわる心配ごと、子どもの発達、離乳食といった子育ての悩みなど、様々な相談が寄せられます。
子どもをどの言語で育てるか
相談の中で特徴的なものの一つが、「子どもをどの言語で育てるか」ということです。
母語を大切にしたいと考える外国人保護者は大勢います。
ただ、家庭で母語を中心に生活をすると、子どもが保育園や学校に入った時に言葉が通じなくて、お友だちができないのではないか、という心配があります。
また、子どもが保育園や学校で日本語を習得すると、母語を話す親と、日本語を話す子どもとの間でコミュニケーションがうまく取れなくなってしまうことがあります。
さらに、あるネパール人のママは、「どの言語で育てるかは、ビザ(在留資格)次第」と話しました。
外国人の在留期間は、多くの場合、更新の可否や更新年数が予測できないことが多く、長期的な計画を立てづらい状況にあります。
「この言語で育てたい」という本人たちの意思だけではどうにもできない状況下で、外国人保護者は子育てをしているのです。
このように、どの言語で育てるか、というのは、とてもデリケートな問題だと感じています。
「ダブルリミテッド」の問題もあります。
母語を十分に身につけていない幼少期に日本に来た子どもの中には、母語と日本語、どちらの言語も十分に習得できていない状態になり、言葉の発達に影響が出たり、学校の勉強についていくのが大変になったりする子もいます。
ただ私は、文化的にどちらにも属していないダブルリミテッドは、人と違った視点を持てるという点で、境界線からどちらにも行ける、2つの宝を持つ、ダブルトレジャーであると考えています。
「2つの宝を持っているんだよ」という、周りの人たちからのあたたかな眼差しとサポートがあれば、彼らの可能性は広がっていくのではないでしょうか。
Mother’s Tree Japan 坪野谷知美さん
多文化共生の子育ては、日本の子育てを豊かにする
外国人の子育てのサポートというと、日本のやり方を一方的に教える形になりがちです。
でも、子育てには、その国の文化、風習、宗教が色濃く反映されます。
ぜひ、それらを尊重することを大切にしてほしいと思います。
外国人女性が出産、子育てしやすい環境を整えることは、外国人か、日本人かに関係なく、一人ひとりの個性を尊重し、出産、子育てがしやすい豊かな社会を創ることにつながります。
そうして多文化が豊かに共生した社会に生まれた子どもたちは、その土壌にしっかりと根を張り、強くしなやかに育っていくのだと思います。
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坪野谷さんのお話は、日本に暮らす外国人親子の現状を知れただけでなく、親子のために私たちにできる多くのことについて考えるきっかけになりました。
次回は、「母語の絵本について考える会」第2回の様子を紹介します。
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連載「母語の絵本について考える」
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1.様々な分野の方々と共に、母語の絵本の出版・制作・普及について考える場を立ち上げました
2.母国を離れての出産、子育て~外国人女性の現状※本稿
3.子育て中の外国人保護者にインタビュー