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自治体の方へ

日本語の読みを言語ごとに記載/赤ちゃん絵本を9言語で紹介 4

連載第4回では、「多言語対応 絵本紹介シート」のアルファベット表記について紹介します。

「母語で自由に楽しんで」という思いを込めて

絵本紹介シートは、1タイトルにつき3枚で構成しています。1ページ目は絵本の内容の説明文、2〜3ページ目は、絵本に書かれている日本語の読み方を、各言語の発音に合わせたアルファベットで記載しています。2ページ目の冒頭には、次のメッセージを入れています。

「あなたの くに言葉ことばで、絵本えほん自由じゆうたのしんで ください。
日本語にほんごみたいときは、この 資料しりょうを つかって ください。」

以前私たちは、外国人保護者が、自身の母語で、“”の自分になって子どもに絵本を読んでやれることの大切さを学びました。
*読みもの:絵本は「読めれば」楽しめる? ~母語・母文化を尊重する意義

このことから私たちは、外国人親子のニーズに自治体が対応できるよう、保護者の母語で書かれた絵本を用意することも検討していきたいと考えています。しかし現状では、日本で流通している外国語の絵本の数や流通の仕組みなどを考えると、1,000を超える自治体へ安定的に外国語の絵本を供給する体制を整えることは難しく、今後の課題となっています。

手渡すものは日本語の絵本ですが、まずは、「あなたの国の言葉で、絵本を自由に楽しんでください」というメッセージを通して、必ずしも日本語で読む必要はなく、保護者の母語で自由に読んでもらえたらと願っています。

言語によって異なる音のアルファベット表記

ただ外国人保護者の中には、絵本を日本語で読んでみたいと思う方もいらっしゃるかもしれません。そうした際に助けとなるよう、著作権者の許諾を得た上で、絵本の中面の画像とともに、本文の発音をアルファベットで記載しました。

実は、3年前に作成した絵本紹介シートでは、日本語の発音をヘボン式のローマ字で表記していました。しかし、東京外国語大学 多言語多文化共生センター長の小島祥美准教授がそれを見て、アドバイスをくださいました。

「言語によっては、ローマ字を別の音で読むことがあります。例えば、スペイン語では、“jo”は“ホ”と読みます。絵本の説明文を言語ごとに新たに翻訳するのであれば、日本語の発音をどのように表記するかについても見直すとよいのではないでしょうか」

そこで、絵本の本文を、当NPOでローマ字表記にし、それらを、東京外国語大学の皆さんに、各言語(中国語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・タガログ語・タイ語・ベトナム語・ネパール語)の発音に合わせたアルファベット表記に書き換えてもらうことにしました。

作業を進めながらも私たちは、ローマ字と各言語のアルファベット表記がどのくらい違うのか、全く見当がつきませんでした。しかし、返ってきた資料を見て驚きました。アルファベットの綴りや促音、拗音、長音の表記、ハイフンの有無など、ローマ字と異なる箇所が複数あったのです。

例えば『あっ!』(文/中川ひろたか 絵/柳原良平 金の星社)の「あっ」や「ひこうき」には次のような違いがありました。特徴的なものを挙げます。

「あっ」
A’(ローマ字)
At(韓国語)/  ¡Ah!(スペイン語)/ A(ベトナム語)

「ひこうき」
hikōki(ローマ字)
hiko-ki(中国語)/  rikooki(ポルトガル語)/ jikōki(スペイン語)

※表記方法は複数ある場合や、訳者により異なることがあります。

▼各言語のアルファベット表記に修正された資料

作成の過程では、スペイン語のご担当の方から、
「スペイン語のh は黙字であるため、ha と綴っても “ア”と読まれてしまい、“ハ”と読ませることは困難です。そこでハ行の転写には、強い摩擦を伴うものの、ハ行に似た音を表す子音字のj を用いてja, ji, je, jo (ハ、ヒ、へ、ホ) と綴ることにしました。ただし“フ”については、より類似した音を表すf があるので、fu と転写しています」
といった説明がありました。

中国語のご担当の方からは、次のようなコメントをいただきました。
「長音、促音、拗音などは、中国語話者には表現しきれない音です。そのため、このアルファベット表記なら読めそうだというものを選びました」

このように、ご担当の皆さんが、各言語、どのようにアルファベットで表記したら日本語の発音に近づけられるかを一生懸命考えてくださったのです。

アルファベット表記の資料作成を通じて私たちは、ローマ字が、外国人にとって万能な表記とは言えないこと。日本語の読み方を伝えるためには、言語ごとのアルファベットを表記する必要があることを学びました。

ご担当の皆さんからは、絵本紹介シートについて、貴重な感想もいただきました。

この資料では、絵と言葉(日本語)だけでは伝わらない内容を母語で説明しているので、日本語以外を母語とするパパやママと、日本の絵本との距離を縮められると思いました。
説明文があることで、絵だけでなく、言葉の面白さも理解できると思います。言葉の「音」や絵は、国の文化を表すものだと思います。
作業を通して、大人も、絵本から他国の文化について学ぶことが多いことに気づきました。

絵本紹介シートを受け取る親子に思いを寄せながら、ご担当の皆さんと協働できたことに、心から感謝しています。

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連載「赤ちゃん絵本を9言語で紹介」。次回は最終回です。

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▼連載「赤ちゃん絵本を9言語で紹介」その他の回を読む
1. 外国人親子に、絵本を楽しんでもらうために
2. 「やさしい日本語」のこと
3. 紹介シートの翻訳を依頼する中で学んだこと
4. 日本語の読みを言語ごとに記載※本稿
5. 「ジモト」で育つ子どもたちに思いを寄せて