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聞こえない、聞こえにくい保護者と絵本/障害のある方への対応を考えるために 9

以前、当連載5 障害のある赤ちゃんや保護者についてで、ブックスタートでの対応は、「親子の組み合わせ」で考えないといけないと、専門家から教えていただいたことをご紹介しました。

聞こえない、聞こえにくい保護者の場合、生まれつき聴覚に障害がある人もいれば、後天的に聴力が下がったり、聴力を失ったりした中途の聴覚障害の人もいます。また、コミュニケーション手段も様々(補聴器活用、手話、口話、筆談等)です。

聴力やコミュニケーション手段など、一人ひとり異なる状況にある保護者は、絵本の読みきかせをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?私たちは、手話を主なコミュニケーション手段としている保護者の方に話をうかがいました。

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手話でやり取りしながら絵本を楽しみました

その方は、子育てで絵本を使ったこともあったそうですが、言葉の響きを楽しむことがテーマの絵本は、手話で表すのを難しく感じたそうです。そのため、絵を見て楽しめるものを中心に、お子さんが絵をしっかり見られるようになった頃から、手話を使って読み始めたということでした。

例えば、絵本にりんごが出てきたら、実物のりんごを手にして、「これ、同じだね」と手話で話しかけたり、箱の絵が描かれていたら、実際に箱を持ってきて、「箱だよ。入ってみる?」と実際に入って遊んだり。絵を見せて、手話でコミュニケーションを取りながらやり取りを楽しんだそうです。

「私自身が絵本を読んでもらった経験がないので、最初はどうしたらよいかわかりませんでした。でも、手話で読みきかせるようになって、親子で色々なやり取りができるようになりました。子どもも絵本を読んでもらうのが大好きな様子です」

お話を聞いて、保護者がやりやすい方法で読めば、絵本の時間が親子のコミュニケーションにつながるのだと思いました。

▼動作を使った絵本の楽しみ方の例(アドバイス ブックレット「赤ちゃんといっしょに はじめまして絵本」より)

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聞こえない、聞こえにくい保護者への対応

では、ブックスタートでは、どのような対応が考えられるのでしょうか?
そのヒントを得るため、私たちは、社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター施設長の森せい子さんを訪ねました。

森さんは、「聞こえない、聞こえにくい保護者の中には、子どもの頃に絵本を読んでもらった経験が少なかったり、読んでもらっても音声を完全に聴取できなかったことから、絵本にあまりなじみがない人も少なくありません。一方で、手話で読み語りを受けて育った人もいます。だから、個々の状況に合わせた、より細やかな対応が必要なのではないでしょうか」と、一人ひとりに合わせた対応が大切であることを教えてくださいました。

具体的な配慮は、次のような点です。

●「手話で読む」「口話で読む」といった型通りの説明ではなく、赤ちゃんに絵本を読む時は、それぞれがやりやすい方法で自由に楽しんでよいことを伝える。

●赤ちゃん絵本は、文字が少ないものも多いので、どうやって楽しむのか、具体的に伝えることも大切。このページでは赤ちゃんをひざに乗せてゆらゆら揺らしてあげるとか、赤ちゃんが見ているものと同じものを見てあげるなど、保護者に、実際の動きを見てもらいながら、色々なやり方があることを伝える。手話通訳者の、表情豊かな読みきかせの通訳を見てもらうと参考になる。

そしてもう一点、忘れてはならないのが、「情報保障」です。事前に、必要な配慮を保護者に確認し、例えば、筆談器や手話通訳の手配など、保護者の主なコミュニケーション手段に合わせて体制を整えておくことで、保護者が安心するのではないか、ということでした。
ブックスタートでは、親子の状況に合わせて対応することが大切ですが、対象者に障害がある場合は、より一層、一人ひとりのニーズに合わせた準備や配慮が必要になるのだと、改めて感じました。

森さんからは、最後に、「ブックスタートの時に、子どもと絵本を読むことをプレッシャーに感じたり、つらい思いをすることなく安心して過ごせれば、保護者もお子さんと一緒にその時間を楽しむことができ、家庭においても絵本が親子の絆を強めてくれると思います」と、活動への期待がこもった言葉をいただきました。

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当NPOではこれまで、様々な分野の専門家や当事者のご協力のもと、ブックスタートでの障害のある方への対応について、情報を集め、考えを深めてきました。それらの情報は、別冊ブックスタート・ハンドブック障がいのある方への対応を考えるためにで紹介しています。

これからも、皆さんとともに、障害のある方への対応について考えていきたいと思います。よろしければ、ご経験やお考えをお聞かせください。
(mail:infobs☆bookstart.or.jp ☆を@に変えてお送りください。)

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▼連載「障害のある方への対応を考えるために」その他の回を読む
1. 読書バリアフリー(1)
2. 読書バリアフリー(2)
3. 「てんやく絵本」との出合い
4. 障害ってどういうことだろう?
5. 障害のある赤ちゃんや保護者について
6. 目が見えない、見えにくい赤ちゃんと絵本(1)
7. 目が見えない、見えにくい赤ちゃんと絵本(2)
8. 聞こえない、聞こえにくい赤ちゃんと絵本
9. 聞こえない、聞こえにくい保護者と絵本 ※本稿

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*「障害」の表記について
当NPOでは、「障害」の原因が「個人が持つ心身機能など=個人モデル/医学モデル」ではなく、機能障害に対応できない「社会の側にある=社会モデル」という「障害者権利条約」の考え方に基づき、「障害」及び「障害のある」と表記しています。