NPOブックスタート Bookstart Japan

自治体の方へ

赤ちゃんの幸せは成熟社会のシンボル

お話をうかがった方:
佐々木宏子さん(乳幼児発達研究・鳴門教育大学名誉教授)

※本稿はブックスタート・ハンドブック 第7版(2018年4月発行)掲載の「専門家から見たブックスタートの可能性」を転載したものです。

ブックスタートの会場へおじゃますることがあります。赤ちゃんと父母(保護者)と絵本をつなごうとする人びとの最前線です。

自治体によっては中心になる「つなぎ人」が、図書館関係者、福祉関係者、文庫経験者など様々であり、それによって雰囲気が少しずつ異なっているようにも見えますが、いずれも「子育て応援団」の色彩が濃いものになっています。私が見学させていただいた会場では、祖父母の世代に近いボランティアさんが、若い父母と赤ちゃんにゆったりと語りかけておられました。様々な子育て支援の行事と場所のマップ(小児科医、図書館・自治体の赤ちゃん向け行事内容、遊び場までも含む)など、たくさんの有益な情報が満載された資料も周到に準備されていました。

初めて会った者どうしでありながら、手渡す人と受け取る人の掛け合わせの分だけ、個別的で親密な何かが生まれます。そこでは若い世代のみが恩恵を受けるのではなく、支援する立場の人びとも、若い世代の子育ての困難さと新しい赤ちゃんの実態を肌で感じることができます。双方にとっての「赤ちゃん発見」の場なのです。

私は以前、日本学術会議の連携会員として、「子どもに優しい都市づくり」の議論に参加していました。その中で発見したことは、ブックスタートは「赤ちゃんに優しいまちづくり」をする上で、とても重要な役割を果たせるということでした。赤ちゃんが健やかに育つために医療や福祉が充実することも大切ですが、それ以上に、赤ちゃんの誕生を社会全体で歓迎し、すべての世代が新しい命について語り合うことが習慣になること、その幸せを共有することが当たり前になるというシステムを、地域の中に創り上げることが必要です。赤ちゃんの誕生と成長をすべての人びとが楽しみながら共有できる「赤ちゃんに優しい社会」こそが、新しい成熟社会の指標となるでしょう。

絵本はともすれば読書への入り口から論じられることが多いのですが、もっと多様な可能性を持つものだと思います。言葉を獲得する前の赤ちゃんにとっては、わらべうたや手遊び、ボール遊びにも似たコミュニケーションツールであり、父母の養育性・養護性を引き出す魅力的な文化財なのです。