2025年9月9日、宮城県仙台市で「ブックスタート全国研修会」を開催しました。テーマは「赤ちゃんの笑顔のために私たちができること~みんなで育む地域のウェルビーイング~」。
18市町村から81名の自治体職員・ボランティアが参加しました。
今回は、事業開始から15年を迎えた、宮城県石巻市、福島県二本松市が事例を報告。地域に根ざした工夫や継続に向けた取り組みが紹介されました。
■プログラム
1.ブックスタートの「今」と「これから」/NPOブックスタート
2.事例報告/宮城県石巻市、福島県二本松市
3.グループトーク
■NPOブックスタート 報告
「ブックスタートの『今』と『これから』」をテーマに、全国各地の事例を紹介。さらに、ウェルビーイングの観点から「親と子」「関わる人」「地域」にブックスタートがもたらしたものについてお話ししました。
■宮城県石巻市 事例報告
(生涯学習課 佐瀨さやかさん/ボランティア 鈴木順子さん、三浦くみ子さん)
石巻市では、生涯学習課を事務局に、健康推進課、各総合支所市民福祉課、図書館、ボランティアが協力して実施。3・4か月児健診の場で、親子一組ずつに絵本を手渡し、読みきかせを行っています。
事業充実・継続のために、生涯学習課では年6回、「ボランティアだより」を発行し、健診日程や研修情報を共有。コロナ禍で活動が休止した時期も、つながりを保ち続けました。
さらに、他自治体の図書館見学や外部講師を招いた研修会を実施し、ボランティアの活動をサポートしています。また、親子に手渡す絵本も、ボランティアとともに検討しています。

石巻市で発行しているボランティアだより
こうした取り組みについて、ボランティアの鈴木さんと三浦さんは次のように話してくださいました。
「研修会は、ボランティア同士の交流や学び合いの貴重な機会です。毎年の絵本選定に参加できるのも楽しみで、『赤ちゃんにはどれが良いか』と真剣に考えて選んだ本が選ばれると、とても嬉しく、活動を続ける力になります」(鈴木さん)
「開始当初はブックスタートが歓迎されず、活動しづらく感じることもありました。保護者から『なんの資格があって読みきかせをするのですか?』と不審そうに尋ねられ、絵本を受け取ってもらえないこともありました。でも今では、お母さんからあたたかい声をかけてもらえることも多く、『上の子のときも絵本を読んでもらいました』と言っていただけたのは嬉しい思い出です」(三浦さん)
一方で、課題もあります。たとえば、コロナ禍以降、会場に入るボランティア数を減らしたため、親子が多い日には、一組ずつにゆっくり時間をとることが難しくなっていることなどです。しかし、「すべての親子に豊かな絵本の時間を届けたい」という思いのもと、職員とボランティアが協力しながら、解決策を模索し続けています。
■福島県二本松市 事例報告
(子育て支援課 菅野寛子さん/生涯学習課 武田幸恵さん)
福島県二本松市では、4か月児健診でブックスタートを実施。子育て支援課を事務局に、保健師、ボランティアが協力・連携して取り組んでいます。 コロナ禍で対面での読みきかせが難しい時期には、ブックスタート事業の案内動画を制作して会場で上映するなど、工夫を重ねてきました。
フォローアップとして、生涯学習課を中心に、3歳児・4歳児に絵本をプレゼントする「ブックステップ事業」を実施しています。各部署で「地域みんなで子育てを」という思いを共有し、乳幼児期から切れ目のない支援体制を築いています。

二本松市の事例報告資料より
ボランティアは、保護者の話に耳を傾けながら、地域のお母さん的な安心感で事業を支えています。毎回、ボランティアに気づいたことを記録してもらい、子育て支援課で共有。必要に応じて保健師へとつなげる体制を整えています。親子のすぐそばで様子を見守る存在がいることで、支援につながるきっかけが生まれています。
「それぞれの親子の状況に合わせた声かけを心がけています。保護者が気軽に話せる相手として、子育て世代の居場所づくりをしていきたいです」(ボランティア)
「受診率の高い健診の場で行うブックスタートを通して、親子のふれあいの時間が増えてほしい」(保健師)
「本は苦手だったけど、読みきかせをする良いきっかけになりました」(保護者)
こうした声に支えられ、二本松市のブックスタートは15年間、親子に絵本を届けてきました。ボランティアの高齢化や担い手不足、外国にルーツのある親子への対応など課題もありますが、「子どもたちが笑顔で心豊かに育ちますように」との思いを胸に、関係機関とともに事業の魅力を発信し、次の担当者へ引き継いでいきたいとの思いが語られました。
■グループトーク
11のグループに分かれて、「事業立ち上げ」「ボランティアの募集方法」「日本語以外を母語とされる方への読みきかせ」など、様々な意見交換が行われました。
・・・・・
<参加者の感想>
◇ 他自治体の活動について直にお話を伺うことができ、参考になった。とても有意義だった。
◇長時間の研修会だと思いましたが、あっという間でした。グループワークも、もっとお話を聞きたいと思いました。
◇それぞれの立場で、工夫と努力を尽くしていらっしゃる姿勢に触れ、当地域でも取り入れたいと思う点が見つかった。
◇改めてブックスタートの基本知識や成り立ち、理念等を学ぶことができて、身が引き締まる思いでした。とても勉強になりました。
・・・・・
今回の研修では、乳児院など家庭から離れて暮らす赤ちゃんや多様な背景にある親子についての質問もなされ、シェアブックス (share books) のきっかけを「すべての赤ちゃん」に届けることの大切さ、そして難しさも共有されました。課題はさまざまにあれど、親子に寄り添うための配慮や、関係者同士の丁寧な関わりが、事業を支え、地域のつながりを育んでいることをあらためて実感しました。