「俺、絵本読むけん!」
赤ちゃんを抱っこし、肩にはラッコのバッグ。図書館にやる気満々のお父さんが現れました。実はこの方、数か月前、ブックスタートに来たときは「絵本なんて、ようわからん」と話していたそうです。そんなお父さんの気持ちを動かした、佐賀県有田町のブックスタートの様子をお伝えします。
有田町では、7か月児健診の最後にブックスタートを行っています。会場ではボランティアが手作りしたパッチワークのタペストリーが親子をお出迎え。1組ずつに6冊の絵本を読みきかせした後、その中から2冊をプレゼントしています。
「バナナ食べたことあるかな?」
「とっても大きなクマのぬいぐるみだね」
そんな優しい語りかけとともに絵本を読むのは、ボランティアの八尋典子さんと匹田博子さん。赤ちゃんだけでなく、保護者にも声をかけて、会話をするように絵本を読んでいます。健診で少し疲れた様子の保護者も自然と表情がほぐれていきました。

親子とお話をしながら、読む絵本を選ぶ八尋さん
八尋さんと匹田さんは2011年に有田町でブックスタートが始まったときから活動しており、小中学校でも長く読みきかせをしています。
これまでの活動の中で、匹田さんが「涙がでるほど嬉しかった」と話してくれたエピソードがあります。
「ある日、ブックスタートで読みきかせをしていたら、ひとりのお母さんが声をかけてくれたんです。『もしかして、中学校に絵本を読みに来てくれていませんでしたか?』って。お話をきいてみると、私が読みきかせに行っていた中学校の卒業生だったのです。まさか、私のことを覚えていてくれたなんて……本当に驚きました。中学生だった子が、今はお母さんになって、赤ちゃんを抱いて、また一緒に絵本を開いている。そう思ったら、もう涙が出るほど嬉しかったですね」

赤ちゃんの目を見つめて、語りかける匹田さん
そんな読みきかせの様子を受付からニコニコ見守るのは、事務局を担当する有田町西図書館の山口弥生さんと東図書館の小野淳子さん。お二人に事業への思いを伺いました。
山口さん
「ブックスタートは図書館だけでは行えません。ボランティアさんの協力や地域との繋がりは有田町の誇りだと思っています」
小野さん
「ブックスタートはとても大切な事業です。その事業を長く継続させることが私たちの役目です」
・・・
有田町のブックスタートには、事業に関わる皆さんの思いが込められた、あたたかい時間が流れているように感じました。きっとこのひとときは、これからも赤ちゃんや保護者の皆さんの記憶に残っていくことと思います。そしてまた、いくつもの素敵な「再会」が生み出されていくのでしょうね。

受付から会場を見守る山口さん(左)と小野さん(右)