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カナダ・ノバスコシア州の活動「Read to Me!」/世界に広がる「赤ちゃんに絵本を贈る活動 」5

2018年10月、私たちはイギリスのロンドン南西部にある、ブックスタートの推進団体「ブックトラスト」の事務所を訪問しました。

その際に一緒に訪問することになったのは、2002年からカナダ・ノバスコシア州で「Read to Me!」という活動をしているキャロル・マクドゥーガルさんです。カナダ東部の半島と大西洋に面する島々からなるノバスコシア州では、州内10か所の病院/産院で、赤ちゃんに絵本を贈る活動が行われています。

赤ちゃんが生まれたら、ベッドサイドで絵本を手渡す
ノバスコシア州の面積は約55,280km² で、これは日本の四国のほぼ4倍にあたります。州都ハリファックスは「赤毛のアン」の作者モンゴメリが大学時代をすごした町。物語の中でアンが大学時代を過ごしたのもこの美しい町が舞台でした。

病院/産院で赤ちゃんが生まれると、24時間以内に一人ひとりのベッドサイドにRead to Me! の担当者が出向きます。年間約1万人の赤ちゃんが生まれますが、活動には研修を受けた約100人のボランティアが協力しており、彼らが連絡を受けて駆けつけるのです。そこで絵本を読みながらパックを手渡し、赤ちゃんとお話しすること、わらべ歌を歌うことの大切さを丁寧に伝えます。


先住民族ミクマク族の赤ちゃんにも
パックは英語、フランス語、アラビア語、中国語のものに加えて、先住民ミクマク族の言葉「ミクマク語」のものも用意されています。キャロルさんはミクマク語のパックを制作した背景を次のように話してくださいました。

「現在ノバスコシア州には、人口の3.5%にあたる約3万4千人のミクマク族がいますが、そのうちミクマク語を話せるのはわずか4千人です。その背景には19世紀に行われた同化政策『インディアン・レジデンシャル・スクール』があります。先住民の子どもたちは学齢期になると親元から引き離され、キリスト教教会が運営する寄宿学校に入れられました。そこでは生まれてから親しんできた文化的習慣を奪われ、言葉を使うと罰せられたのです。現在カナダでは、そのような先住民の言語を守り、再生させる取り組みが模索されています。」

新たに親になる世代にも、ミクマク語を話せる人は多くはないといいます。そこでRead to Me!では先住民の方たちの意見を取り入れ、わらべ歌が入ったCDをパックに入れ、失われつつある言葉を、まずは耳で聞くことができるようにしました。

またパックの制作を始めた当初は、ミクマク語の赤ちゃん絵本が出版されていなかったため、地元の出版社と協力し、元々英語で出版されていた本を翻訳出版しました。現在では、ミクマク族の作家やイラストレータによる、美しく素晴らしい赤ちゃん絵本も出版されるようになっているそうです。

▽左:英語の絵本/右・下:ミクマク語に翻訳した絵本

 

▽ミクマク族のイラストレーターによる絵本

さらにパックには「アクティビティ・カレンダー」も入ります。これはミクマク族の伝統的な行事が記されていたり、子どもの成長にまつわるお祝いについて記録できるスペースが設けられています。

▽アクティビティ・カレンダー

このように、言葉だけではなく民族の文化全体が受け継がれていくように工夫して制作されたパックは、ミクマク族の方たちからもとても歓迎されているそうです。
「子どもがまだ小さなうちに、私たちの言葉を伝えること。それは、私たちが与えることができる最も尊い贈り物です」
「私たちがいなくなった後にミクマク語を継承し、ミクマク族の文化を継続させるのは、子どもたちなのです」

先住民の方と一緒に、少しずつパックの内容を充実させてきたキャロルさんは、「赤ちゃんが生まれた時に手渡される1つのパックを通して、Read to Me!では、先住民の文化を祝福し、新しい世代のミクマク族の赤ちゃんたちのために、言語の再生の一助となりたいと願っているのです。」と話してくださいました。

▽紅葉が美しいカナダの街路樹 (photo byキャロルさん)

*5回にわたって世界の活動を紹介してきたこの連載は、今回が最終回です。

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