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連載「障がいのある方への対応を考えるために」(6)  聞こえない、聞こえにくい赤ちゃんと絵本

 
先日、プライベートで行った展示会「トラNs(ンス)レーショNs(ンズ)展」で、不思議な体験をしました。
展示会のテーマは、“「わかりあえなさ」をわかりあおう”
 
「・・・のイメージ」とあったそのブースでは、枠の中に、手で「雲」のかたちを作るよう指示がありました。指示通りに雲の形を作ると、目の前のスクリーンに雲の絵が現れて、手を動かす方向に、雲の絵がもくもくと動いていきました。今度は、手の指を下に向けて「雨」のようにしたところ、雨の絵が現れて、手を動かすスピードに応じて雨がざあざあ降ったり、ぽつぽつ降ったりしたのです。
 
 

手の動きが雨の絵になって現れたスクリーン
 
 
ブースには、次のような説明がありました。
「音の言語では名詞や動詞がそれぞれ分けて表されるが、視覚の言語では一体となって表現されていく。あなたが描く手の動きから、一体どんなイメージが生まれるだろうか。」
 
手の動きが雨の絵になる体験をして、思い出したことがありました。
 
 
ろう学校の乳幼児教育相談の教室で
 
それは数年前、ブックスタートでの耳が聞こえない、聞こえにくい赤ちゃんへの対応について考えるために、ろう学校の乳幼児(0-2歳児)の親子が参加する教育相談の教室を訪問した時のことです。
教育相談の先生が、あるエピソードを話してくださいました。
 
雨が強く降る日、先生が、教室にきていた子に、「雨ざあざあだね」と手話で話しかけました。するとその子が、外を指さして、「雨」の手話をしたのです。それは、外の雨と、「雨」という手話が、その子の中で初めて一致した瞬間でした。その後2人で、何度も、「雨!雨!」と、ざあざあ降る雨の手話をしたそうです。
 
 

「雨」の手話
 
 
先生が、手話では雨を表す時、動きの速さで雨の強弱を表現することを教えてくださったのですが、私自身、展示会で手の動きに合わせて様々に変化する雨の絵を見て、手話による表現を、少し理解できた気がしたのです。
 
教育相談の教室には、手話や動作を使って絵本を楽しむ親子の姿がありました。
 
1歳半位の女の子とお母さんは、向かい合って、『りんごが ころん』を読んでいました。
 
 

『りんごが ころん』(文/中川ひろたか 写真/奥田高文 ブロンズ新社)
 
 
閉じていた傘が、「ぱっ」と開くページでは、女の子が、傘を「ぱっ」と広げてさす動きをしました。鳩時計のページでは、教室にある鳩時計をお母さんが指さして、「同じ」という手話をして、女の子も「同じ、同じ」と手話を返していました。おもちのページでは、女の子が両手を使って「ぷく~」とおもちがふくらむ動作をすると、お母さんも同じような動作をして、2人とも笑いながら、とても楽しそうだったのです。
 
 
絵本は親子がふれあう方法の一つ
 
先生は、絵本について、
「聞こえる、聞こえないに関わらず、肌のぬくもりを感じたり、親子でふれあうことが大切なのは、どの子も一緒です。親子がふれあう方法の一つとして、絵本が役立つのではないでしょうか」
とおっしゃいました。
 
その理由は、
「聞こえない、聞こえにくい子は、“見る”ことで様々な情報を得ています。絵本を読んでやると、絵を隅々まで見て、色々な発見をして楽しみますし、読み手の豊かに変化する表情を見てとても喜びます。すると保護者も、“見るんだな”“伝わるんだな”と感じて、赤ちゃんともっとコミュニケーションを取ろうとして、親子の距離がぐっと近づくのです」
とのことでした。
 
では、どのように絵本を読んでやればよいのでしょうか?
先生からお聞きしたポイントをご紹介します。
 
・手話で、声でなどと方法にとらわれずに、向かい合って顔を合わせた時に、お互いにとって一番自然なやり方で読んで大丈夫。赤ちゃんをひざにのせて、言葉のリズムに合わせてゆらゆら動かしたり、身体を使って楽しむのもよい。
 
・赤ちゃんが見ているところと同じところを一緒に見たり、赤ちゃんが読み手を見上げた時に、表情や身振り、(手話ができるのであれば)手話をつけて話しかけてあげるとより一層喜ぶ。
 
・絵を見て内容を理解するので、絵を見る時間をたっぷりと取ってあげる。ページをめくる時は、次のページがあることがわかるように、ゆっくりとめくる。
 
・初めのうちは、見開きで一場面になっている絵本の方が、絵の内容を理解しやすい。また、読み手が手の動きや身振りをつけやすい内容や絵のものを選ぶのもよい。
 
 
聞こえない、聞こえにくい赤ちゃんの保護者の声
 
教室にいらした保護者からは、ブックスタートについて、次のような話をうかがいました。
 
「ブックスタートで受け取った『いないいないばあ』(文/松谷みよ子 絵/瀬川康男 童心社)を読んでいます。“なんだろう?”と興味津々で絵を見ていた表情が、ページをめくると、“うわぁ、くまさんだ!”という雰囲気でパッと変わり、見ているんだな、と嬉しくなります」
 
また、ご自身も聞こえない保護者は、ブックスタートで絵本をプレゼントされることについて、
「聞こえる人は、視覚だけでなく、耳からも、言葉や音などによって情報を得ていますが、聞こえない人は、目からほとんどの情報を得ています。私自身、漫画や絵本などの絵や文字から意味を読み取って、言葉やイメージなどの情報を得てきました。そうした経験から、聞こえない我が子にも絵本を介して伝えたいことがたくさんあります。だから、当然のように絵本を読んでやっていますし、絵本をもらえるのは嬉しいです」とお話しくださいました。
 
聞こえない、聞こえにくい赤ちゃんに絵本を渡すことは、親子にとってプレッシャーにならないだろうか?そんな不安もあったのですが、絵本が親子のふれあいにつながっていることがわかり、ほっとしました。
 
ただ、これは聴覚障がいに限ったことではありませんが、ブックスタートが行われる生後数か月の頃は、赤ちゃんの障がいについて、診断がついたばかりだったり、経過を見ている段階だったりする可能性もあります。そのため、不安や動揺から、絵本に気持ちが向く余裕がないという保護者もいらっしゃるかもしれません。
 
そうした保護者一人ひとりの状態に寄り添い、丁寧に対応していくことこそが、大切なのだと思いました。
 
 
<連載>
第1回 「障がいのある方への対応を考えるために」(1)読書バリアフリー その1
第2回 「障がいのある方への対応を考えるために」(1)読書バリアフリー その2
第3回 「障がいのある方への対応を考えるために」(2)「てんやく絵本」との出合い
第4回 「障がいのある方への対応を考えるために」(3)障がいってどういうことだろう?
第5回 「障がいのある方への対応を考えるために」(4)障がいのある赤ちゃんや保護者について
第6回 「障がいのある方への対応を考えるために」(5)目が見えない、見えにくい赤ちゃんと絵本 その1
第7回 障がいのある方への対応を考えるために」(5) 目が見えない、見えにくい赤ちゃんと絵本 その2

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