ブックスタートで障がいのある方への対応を考えるためには、まず、障がいのある赤ちゃんや保護者の状況についてきちんと知る必要があるのではないか――。
そう考えた私たちは、約8年前、臨床発達心理士で、JBBY世界のバリアフリー児童図書展実行委員長をされている、撹上久子さんにお話を伺いました。
障がいを「持つ」ではなく、障がいの「ある」
「障がいを持つ赤ちゃんや保護者について、お話を伺えませんか?」
初めてお会いした時、私たちはそう撹上さんにお尋ねしました。
すると撹上さんは、こうおっしゃいました。
「“持つ”という言い方では、障がいが、その人の責任になってしまう。障がいは、社会的障壁によって生じる制約や制限とも関連づけて捉えるべきだから、“持つ”ではなく、障がいの“ある”なのではないですか?」と。
障害者基本法 第二条でも、障がい者は次のように定義されています。
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
自分たちの勉強不足を痛感し、もっと学ばなければ、と感じた出来事でした。
そして、そもそもの「障がい」の捉え方について、誤りを指摘していただけたことは、その後、私たちが障がいのある方への対応を考える際に、とても意味のあることでした。
点字と手話について
撹上さんとお話する中で、私たちが初めて知った二つのことがありました。
一つ目は、「視覚に障がいのある人すべてが点字を使うわけではない」ということです。
視覚に障がいのある人には、全盲の方だけでなく弱視の方もいて、弱視の方は、普通の文字を拡大して活用するなど、主に視覚による学習等もしているということでした。
また、生まれつき視覚に障がいのある人だけでなく、後天的に視力が下がったり、視力を失ったりした中途の視覚障がいの人がいること。中途の視覚障がいの場合、点字を使わない人もいることを知りました。
調べてみると、「平成18年 身体障害児・者実態調査」(厚生労働省)の障がいの程度別点字習得率では、点字の読み書きが可能な人は全体の12.7%で、障がいの程度が最も重い1級でも4人に1人(25.2%)でした。
二つ目は、「聴覚に障がいのある人すてべが手話を使うわけではない」ということです。
聴覚に障がいのある人には、生まれつき障がいのある人と、後天的に聴力が下がったり、聴力を失ったりした中途の聴覚障がいの人がいること。また、聴覚に障がいのある人は様々なコミュニケーション手段(補聴器活用、手話、口話、筆談等)を用いていることを知りました。
古いデータにはなりますが、「平成8年 身体障害者・児実態調査」(厚生省)の障がいの程度別手話習得率では、手話ができる人は全体の14.1%で、1級でも42.9%です。
これらのことを知ったことで、点字や手話だけでない、様々な方法でのサポートが求められていることに気づきました。そして、一人ひとりのニーズに合わせて対応を考えなければいけないのだということもわかりました。
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連載「障がいのある方への対応を考えるために」
次回は、「障がいのある赤ちゃんや保護者について」。引き続き、撹上さんに教えていただいたことをご紹介します。
<連載>
第1回 「障がいのある方への対応を考えるために」(1)読書バリアフリー その1
第2回 「障がいのある方への対応を考えるために」(1)読書バリアフリー その2
第3回 「障がいのある方への対応を考えるために」(2)「てんやく絵本」との出合い
第5回 「障がいのある方への対応を考えるために」(4)障がいのある赤ちゃんや保護者について