事例紹介

佐賀県武雄市

「”親子にとっての最善”を常に考えて」

  • 取材日2012年5月
  • ニュースレターNo.38より抜粋
  • 事務局
  • 図書館
  • 年間出生数
  • 約500人
  • 月齢
  • 4か月
  • 実施機会
  • 健康診査

武雄市では、各関係機関やボランティア団体の代表など20名で構成する検討委員会を2か月に一度開催。現場から出た反省点や気づいた点を共有し、事業の見直しと運営の改善につなげています。

 清々しい青空の下、ブックスタートの会場となる保健センターには、27組の親子が集まりました。部屋の中央に敷かれたマットで健診の順番を待つ親子にボランティアが話しかけると、和やかな会話があちらこちらで続き、会場は活気に満ちていました。

 今回は、開湯1300年の歴史を誇り、宮本武蔵やシーボルトなど、多くの偉人にも愛された温泉地として知られる、佐賀県武雄市の取り組みをご紹介します。

絵本を通したふれあいのきっかけをすべての親子に

 武雄市でブックスタート(事業名:おひざでよんで!)が始まったのは2002年。佐賀県保健所研修会で活動を知った行政職員とボランティアが、声をあげたことがきっかけでした。当時子育てサポーター※として研修会に参加し、現在はボランティアとして活動に関わる光武夕日里さんに、その時感じたことについて伺いました。「対象が、地域に生まれたすべての赤ちゃんと保護者だという点に魅かれました。そして、健診未受診者には“来られない理由”があるのでは?という考え方を知った時、これはすごいと思ったんです。そういうふうに相手の立場になって考えるという視点は、子育て支援の場では一番大切なことですから。また、赤ちゃんにどういう言葉をかけていいのかわからないという保護者に対して、絵本の読みきかせという具体的な方法を伝えることは、とても意味のあることだと感じました」

 図書館でブックスタートを担当する水山美香さんは、活動の意義について「絵本リストなどの配付も大切ですが、興味がない人の目には触れられないままになってしまう可能性もあります。でも、絵本を手渡せば、健診に来ていなかった家族の方にもその楽しさを伝えられますし、すぐには読まなくても、いつか思い出してやってみようというきっかけにもなるのではと思っています」とおっしゃいます。また、ブックスタートの趣旨を保護者に説明するときは、絵本を読むことが目的なのではなく、親子がふれあうひとときを、絵本を介してたくさん作ってほしいということを必ず伝えているそうです。それが、ひいては親子の愛着形成につながるというブックスタートの理念に深く共感しているのだと、水山さんは思いを込めて話してくださいました。
 武雄市では4か月児健診で事業を実施していますが、健診未受診者には図書館から案内を出し、子育て総合支援センターでブックスタート・パックを手渡します。未受診者の中には、より支援を必要としている人がいるかもしれないという視点からも、パックを受け取りに来ることを機に、育児に関する相談や情報提供を行うセンターを、その後利用してもらえたらと考えているそうです。

※子育て相談やアドバイスを行う家庭教育の応援団。養成講座を終了後、市の事業やイベントで、保育サポートや託児を行う。

 

たくさんの絵本が置かれた待ち合いスペースは終始あたたかい雰囲気


検討委員会が事業の要

 事業の運営にあたっては、連携する各機関やボランティア団体の代表など20名で構成する検討委員会が、重要な役割を果たしています。事業開始以来、2か月に一度顔を合わせて、様々な話し合いを行っています。「現場から出された反省点や気づいたことを共有し、事業の見直しと運営の改善につなげています。また、市内の子育てに関わる情報を交換したり、異動などで新しく加わったメンバーが活動の意味を理解する機会にもなっています。検討委員会は、事業を実施する上で欠かせない組織であり、毎回深い内容の話し合いになるんですよ」と水山さん。会議に出席できなかったメンバーには議事録を作成し、必ず内容を伝えているそうです。
 さらに検討委員会では、絵本リスト・アンケート・広報チラシという3つの部会に分かれた活動も実施し、みんなで意見を出し合って資料の作成などを行います。図書館は会議の場を提供したり、資料の校正を行ったりするなど、部会活動のサポートもしています。以前作成した子育て支援マップは、現在では未来課が担当する赤ちゃん訪問で手渡されるなど、部会から生まれたアイデアは、ブックスタートの枠を超えて他事業の充実にも役立てられています。

改訂したばかりの絵本リスト裏表紙には“編集・発行 武雄市「おひざでよんで!」検討委員会絵本リスト部会”と明記されています

 

親子のために思いをひとつにして

 武雄市のブックスタートが始まって今年で10年が経ちますが、その間、母子保健事業の再編に伴う度重なる実施機会の変更や、近隣自治体との合併などがあり、そのあゆみは決して平坦なものではありませんでした。こうしたいくつもの課題を乗り越えることができたのは、行政の各課とボランティアなどが連携して事業を行っていたからだと光武さんはおっしゃいます。
 今年度からは健診の流れが変わり、読みきかせをする時間の確保について見直しが必要になりましたが、検討委員会で議論を重ね、待ち時間をうまく利用して一組一組の親子に絵本を読みきかせたり、ゆっくり会話を楽しんだりする機会を作ることになりました。
 「赤ちゃんを連れての初めてのお出かけにもなる健診では、知り合いもなく待ち時間をじっと過ごしている保護者が見受けられます。実は、ボランティアの多くは同じ経験の持ち主なんです。だからこそ、健診が地域の人とのふれあいの場であってほしいと願い、積極的に親子に話しかけるようにしています。同じ予算ですべての親子に行きわたる子育て支援事業は他にありません。これだけは絶対に続けていきたいです」と光武さん。
 水山さんも「長年この事業を実施していますが、まだまだ課題はあります。でもそれを“問題”として捉えるのではなく、みんなで工夫しながら前向きに乗り越えていくことが大切です。その際最も必要なことは、ブックスタートに関わる全員が“赤ちゃんや保護者にとっての最善”を常に考えることだと思うのです」と話してくださいました。

保護者も思わず笑顔に

 取材した会場では、図書館職員が保護者に対して丁寧に事業の説明を行い、連携機関の行政職員やボランティアが、待ち合いスペースに二人きりでいる親子に絶えず声をかけていました。与えられた役割を確実に、かつ自然にこなし、その場の雰囲気をとても和やかなものにしている皆さんの姿が印象的でした。たくさんの人たちがそれぞれの立場から何ができるのかを常に考え、それを形にしている武雄市の取り組み。ブックスタートという活動の充実には、関わる人たちの連携が欠かせないことを、改めて感じることができました。


 

 

 

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