事例紹介

鳥取県境港市

「アイデアいっぱい、愛情いっぱいのブックスタート」

  • 取材日2008年7月
  • ニュースレターNo.22より抜粋
  • 事務局
  • 子育て支援課
  • 年間出生数
  • 約290人
  • 月齢
  • 6か月
  • 実施機会
  • 健康診査

開始当初から「赤ちゃんの幸せのためにと、立場を超えてみんなが燃えていました」という境港市。市民と行政が心からお互いを信頼し、親子への深い愛情をもって事業を進めている様子を、事例と座談会でご紹介します。

明るく笑顔あふれる健診会場

 6か月児健診の会場では、明るい海の色をしたマットの上に親子が座り、健診の順番を待っています。そこに図書館員やボランティアがブックスタート・パックを持っていき、ブックスタートが始まります。 「こんにちは。お待ちになっている間に、ブックスタートのお話をさせていただきますね」 絵本を読み始めると、親子に笑顔が広がり、会場全体がやわらかな雰囲気に包まれていきます。パックを受け取った後に、早速絵本を開いて親子で楽しむ姿も見られました。

 今回は、海の幸やゲゲゲの鬼太郎のまちとしても有名な、鳥取県境港市の活動をご紹介します。


はじまりは、市民の声

 境港市でブックスタートが始まったのは、2002年4月。きっかけは、読みきかせボランティアグループからの要望でした。初めてブックスタートを知ったときのことについて、グループの代表・足立茂美さんは次のように話してくださいました。「絵本を通して、赤ちゃんが親の愛情に包まれる幸せな時間を持つということ、それは親子にとって、かけがえのない時間になるだろうと思いました。そのきっかけを、もともと絵本が好きなご家庭だけでなく“すべての赤ちゃん”のもとに届ける活動だということを知って、ぜひ境港市でも始めてもらいたいと思ったんです」 そしてその思いを、健康対策課(現・子育て支援課)や図書館、教育委員会、福祉課といった、子どもに関係すると思われる各部署に、説明してまわりました。市民からの提案を受けた行政側も、子育て支援や親子関係づくりの具体的施策としての可能性を感じ、すぐに各部署と複数のボランティアグループで構成する“ブックスタート連絡会”を設立。実施へ向けての検討を始めました。連絡会では、ブックスタートの理念や意義を共有し、協力体制を整えました。「赤ちゃんの幸せのために一番良いやり方を考えようと、立場を超えて、みんなが燃えていました」 と足立さん。こうして築かれた連携体制は、現在もしっかりと受け継がれ、ブックスタートは、行政の機関どうしが横でつながり、市民と行政が協働する事業として、歩みを続けています。

 
一組ずつの親子にパックを手渡します


周辺事業の充実で継続的に親子をサポート

 その後、境港市では様々な周辺事業が生まれ、絵本を軸とした継続的な子育て支援施策が行われるようになりました。
 保健関連事業の中にこうした活動を積極的に取り入れることについて、ブックスタートの事務局を担当する子育て支援課の課長・浜田壮さんは、「母子保健の事業には、100%近い親子がやってきます。そうした“市内に住むほぼ全数の親子と向き合う機会”が、境港市では、3歳までに7回あるのです。せっかくのこの機会を、教育関係者、医療関係者、福祉関係者、ボランティアが、ともに、親子をサポートするために活用しようという意識を強く持っています。ブックスタートはその基本となる施策なのです」と話してくださいました。

 
ブックスタートで受け取った絵本を早速楽しむ親子

 継続的な取り組みを行うことで、いろいろな場面で変化も見られるようになりました。例えば、母子手帳交付時に行われる妊娠期からの読みきかせ事業(前頁表の①、2007年度より開始)では、6か月児健診でブックスタートがあることも伝えています。2008年6月からは、その説明を受けた親子が6か月児健診の対象者となったため、ブックスタートを楽しみに健診にやって来る親子が増え、会場でのやりとりがより和やかになりました。その他にも、ボランティアが開催するおはなし会への赤ちゃんの参加や、3~4歳以下の子どもたちの図書館への来館も増えました。そのため、新たに赤ちゃん向けおはなし会のプログラムを作ったり、図書館に赤ちゃん絵本を増やすなどの取り組みも行われました。


財政難を乗り越えて ~コットン・バッグ予算の復活~

 このように活動を充実させてきた境港市ですが、一方で、2003年度には、財政難を理由に、それまで手渡していたコットン・バッグの予算が削減されてしまったことがありました。しかしその後も、ボランティアの皆さんは、バッグも一緒に手渡したいという思いを持ち続けていたそうです。「ブックスタートのラッコのイラストがついたバッグを一目見るだけで、親子で絵本を読むっていいなということが伝わり、家に持ち帰れば、家族にも自然にその良さが伝わります。バッグを持っている人を見かけたら、ボランティアは親子に話しかけたくなりますし、保護者どうしが話をするきっかけにもなります。持って歩いてくれれば、ブックスタートの広報にもなるんです。バッグには、大きな役割があると思っていました」と足立さん。
 そして2005年。子育て支援課に異動してきた浜田さんが、そうした思いを耳にしました。「バッグは単なる入れ物ではない。地域と保護者をつなぎ、保護者どうしをつなぐ重要な役割がある。これは必ず復活させなければ」 そう思った浜田さんは、すぐに財政課へ説明に行きました。市民の思いはやがて市長に届き、市長の即断により2006年度からバッグの予算が復活。今では、ラッコのバッグを持った何組もの親子が、図書館等を訪れているそうです。


事業継続のための様々なアイデア

 境港市では、ブックスタートの継続のため、様々な取り組みも行っています。2005年には、「次世代育成支援行動計画」 と 「子どもの読書活動推進計画」 にブックスタートを盛り込み、市の事業としての位置づけをより明確にしました。2006年には、「赤ちゃんに接する笑顔で市民と接してほしい」 との願いから、市の新規採用職員の実地研修にブックスタートを導入。これから様々な部署で働く職員に、ブックスタートを知らせる機会にもなっています。また2007年には、保健センターのロビーで5年間の活動を振り返る企画展を開催し、市民にブックスタートをピーアールしました。その他にも、何か新しい展開があるときには新聞社に情報提供し、継続的な広報も行っています。取材当日も、境港市の活動を見学するNPOブックスタートが地元の新聞社から取材を受け、後日その様子が記事になりました。
 浜田さんは、「様々な機会にブックスタートの情報を目にすることで、ボランティアさんのやる気にもつながるし、市民や他の市町村の住民に“境港市は子育てに力を入れているんだな”という印象を持ってもらうことにもなると思っています。新人職員研修については、市役所内にブックスタートの応援団を作っていくという観点からも、中長期的にとても意味のあることだと思っています」 と話してくださいました。
 アイデアいっぱい、愛情いっぱいの境港市のブックスタート。座談会では、市民と行政の協働の秘訣や、財政難の中でどのように予算を確保しているのかなど、様々な角度からお話をうかがいました。

 
ブックスタートで笑顔でバック手渡す新人職員(左2名)

 
5年間の活動を振り返る企画展の様子

 

 

 

 

 

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