ごあいさつ

  • 松居 直
    (児童文学者)

 Share books with your baby! (赤ちゃんと絵本をいっしょに楽しもう。お母さんと赤ちゃんとが絵本で歓びをわかちあおう)という呼びかけで、 1992年にイギリスで始まった「ブックスタート」の内容を知ったとき、そこに社会における人間尊重のとても温かい思いを感じ、わが国でも始まればよいと願いました。 ただし、イギリスとは社会の構成や文化の伝統が異なるわが国で実施するとなると、まず日本の子育て文化をふり返って検討し、再評価をするなかで生かすべきは生かし改めるべきは改めて、 借りものでなく地に足のついた日本モデルの「ブックスタート」を作らなければ意味がないし、定着もしないだろうと思いました。

 さらに「ブックスタート」が各地の自治体の行政判断によって実施され、保健センターと図書館とが窓口と支援の役割を担うとなると、それぞれの地域社会の状況や特質を踏まえ、地域の生活に密着した展開が大切であり、 住民と行政との相互理解と協力とでおこなわれないと、上滑りの運動になってしまうおそれがあります。それには行政側が地元住民の「子育て」の実体と問題点とをどのように認識しているか、 また次世代の地域社会を担う子どもの成長や教育の環境づくりに、どう責任をもとうとしているかが問われることにもなります。一方、この「ブックスタート」が定着すれば、家庭の安定と地域社会の活性化、 また保育や教育の環境づくりにもおおきな力となることは間違いありません。

 その意味で「ブックスタート」は、全国一律の上から下へ降ろす運動になっては、弊害のほうが多くなるでしょう。この運動の成否は、草の根の住民の気持ちをどれくらい汲みとれるかにかかっています。 私たちはだれもが誕生のとき、母親から生命をもらいました。そして生命の器である身体をもらいました。これはゆるぎない事実です。そのうえで生命を支え育てる言葉をもらいました。

 赤ちゃんはお母さんか、それにかわる大切な人の胸に抱かれ、腕に支えられて心のこもった温かい声と言葉に包まれます。 赤ちゃんはお母さんの声と言葉に歓びを感じ、またお母さんは赤ちゃんの口からでる声が歓びです。そこには共に居る歓びと言葉の歓びがあり、共に居る所には愛と言葉があったのです。 言葉の歓びは生きる力を育くみます。言葉こそ生きる力であり、愛を感じる力なのです。しかし今は声の言葉が貧しくなり、口の言葉の消える時代です。これでは子どもの生きる力も愛を感じる気持ちも育ちません。

 「ブックスタート」はお母さんと赤ちゃんとに言葉と愛を届ける奉仕です。なぜなら絵本の中にはゆたかな言葉が秘められています。 赤ちゃんが眼にするさし絵は言葉につながり、赤ちゃんとともにさし絵をみるお母さんも文と絵からいろいろの言葉を読みとって、自由に赤ちゃんに話しかけます。 そのお母さんの声と言葉に抱かれて、赤ちゃんは気持ちを動かし愛を感じます。

 「ブックスタート」はお母さんの幸せを願う運動です。お母さんが幸せでなくて赤ちゃんの幸せはありません。子育ての不安は当然でしょう。 だからこそ子育てに歓びと生甲斐感を体験していただきたいのです。それには母と子を支え、頼れるお父さんの手と声が必要です。「ブックスタート」の成否は、お父さんをどう巻きこめるかが鍵です。

 「ブックスタート」は絵本を普及する運動ではありません。言葉の世界そのものである絵本に、「お幸せに!」という思いと言葉を添えて手渡し、共に生きることを願うものです。 それと同時に、「ブックスタート」で初めて赤ちゃんが手にした絵本は、必ず保存しておいてください。そしてその子が成長したいつか、例えば結婚式といった適当なときに、手渡してあげてください。 それはお母さんの匂いのする、赤ちゃんのときの匂いのする出生証明で、「ヘソの緒」のようなものです。その子の確かなルーツであり、一生の記念となるかけがえのない絵本なのです。

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