コラム

三石 知左子

  • 小児科医
  • 葛飾赤十字産院 院長

プロフィール

年間2000人を超える赤ちゃんが生まれる産院で、赤ちゃんから6歳までの健診など、 乳幼児の発育発達を中心とした診療や、育児相談を行う。また、育児雑誌等での育児相談も行っている。

第1回
『絵本を愛でる赤ちゃん』
第2回
『父親(男性)の得意種目』
第3回
『「顔」が絵本?』
第4回
『指さしが予言するもの』
※ニュースレターNo.29~32(2010年6月~2011年3月)より

第1回 『絵本を愛でる赤ちゃん』

1歳6か月児健診があります。この健診では、独歩(ひとりで歩くこと)と有意語(意味のある言葉)を確認しますが、 私は保護者に「お子さんは絵本が好きですか?」と質問しています。ほとんどの方は「絵本は好きです」と答えます。 次に「読んであげると聞いていますか?」と尋ねますと「最初のうちは聞いているけどすぐ飽きちゃって…」 「ページをめくるほうが好き」「かじっちゃう」と様々なお答え。「じっと聞いている」というのは少数派です。 1歳半児でこのような状態ですから1歳前の赤ちゃんはもっとじっとしていないでしょう。

 生まれて間もない赤ちゃんにお話を聞かせて脳の反応をみた研究があります。 すやすや眠っている赤ちゃんにお話を聞かせると、聴覚に関係する側頭葉の中でも特に言語野と呼ばれる部分と、 ものごとに集中する時に活動する前頭葉の2ヵ所が強く反応するのです。言葉ではないただの音を聞かせてもこのような反応はありません。 赤ちゃんは言葉に対して集中力を高め、耳を傾けてじっと聞いているのです。赤ちゃんは絵本をかじったりページをめくったりして唇や指先で感触を楽しんだり、 ページをめくって絵の動きを視覚で楽しんだりと様々な形で絵本を愛でながら実はお話を聞いています。

 健診でのお話に戻ります。ではじっと聞いている少数派はどのような1歳半児でしょうか。 兄、姉のいる家庭が多いです。「お兄ちゃん、お姉ちゃんに読んであげているとそばによって来て一緒に聞いている」のです。 これは赤ちゃんの頃から日常的に兄、姉が絵本を読んでもらっている中で、言葉に対しての高い集中力が養われ、 じっと耳を傾けていることが多いからと考えます。また上の子が読みきかせが楽しいと感じる気持ちが雰囲気となって下の子に伝わり 「私にも読んで、僕にも読んで」となるのでしょう。

 見る、触る、嗅ぐ、かじる、めくる―様々な形で絵本を愛でる赤ちゃんに、 小さいうちから声に出して絵本を読んで、耳からも愛でてあげてください。 繰り返し読みきかせするうちに赤ちゃんはじっと聞いて「もっと、もっと」と反応するようになります。

第2回 『父親(男性)の得意種目』

今から20数年前、新婚旅行で初めて行ったケニアで、 日本人の動物写真家と知り合いました。その彼に、先日ある会で「動物の親子から何を学ぶか?」という講演をしてもらいました。 様々な動物の子育てについて話してくれましたが、その中で私の印象に残ったのが、哺乳類でオスが子育てに関わるのはオオカミ、 キツネなどのイヌ科の動物や群を作るサルくらいだということでした。ヒトのオスは、子育てに関わることのできる数少ない生き物なのです。 世の男性は、ヒト科に生まれてきた幸運を感謝すべきでしょう。

 最近、育児をする男性をマスコミは「イクメン」と呼んでいますが、 私の外来にも「イクメン」が時々来ます。育児休業を取得した「本格的なイクメン」から、 奥さんに言われて仕方なく子どもを連れてくる「なんちゃってイクメン」まで様々ですが、 程度の差こそあれ、子育てに関与することは人生に奥行きを与えてくれる貴重な経験だと思います。 しかしこのイクメンで困ることがあります。母乳がたっぷり出ているにも拘らず、哺乳瓶を使って授乳をしたがる父親がいることです。 育児は授乳だけではなく、オムツ換え、入浴、散歩など、色々あります。とりわけ抱っこは男性の得意種目です。 母親にないたくましい胸と太い腕でしっかり抱いたり、がっしり組んだ膝の中にくるむことで、どれほど子どもは安心感を得ることでしょう。

 赤ちゃんを抱っこすると、自然に話しかけていることに気がつくでしょう。 その時ちょっと自分の声に耳を澄ませてください。声のトーンが高いはずです。赤ちゃんは調子の高い音を好むので、 新米の母親も父親も本能的に高い声になっています。

 大人が赤ちゃんに話しかける時に世界共通の特徴があります。 「声のトーンが高くなる」他に「ゆっくりとしたしゃべり方」、 「同じ言葉の繰り返し」、「抑揚の誇張」です。これをマザリーズと言い京都大学の正高信男先生は 「母親語」と訳しましたが、これは母親だけでなく赤ちゃんに話しかける人に共通しています。 普通に話すよりこの母親語で話しかけたほうが、赤ちゃんは話し手に注意をむけるからです。正高先生は、 男性と女性がそれぞれ、母親語を使って絵本を読んだ時と使わないで読んだ時の赤ちゃんの様子を比較した研究をされています。 赤ちゃんの注目度は、多くの場合女性が母親語で読む時が高いのですが、怖い絵本の時は、男性が母親語で読むほうが断然に注目度が高いと報告されています。

 絵本にも男性の得意種目があることがわかりました。 おばけや怪獣の怖い絵本は、父親(男性)が抱っこして、少し声の調子を上げて、 ゆっくりと抑揚を利かせて読んであげてください。子どもは安心して怖さを楽しんでくれるでしょう。

 

第3回 『「顔」が絵本?』

無事に赤ちゃんが生まれてお家に帰った後の最初のお出かけは、 1か月健診です。お母さんと赤ちゃんと、それに時々はお父さんやおばあちゃん、 加えて小さなお兄ちゃん、お姉ちゃんが付き添って1か月健診に来院します。お家に帰ってからの赤ちゃんの様子について質問し、 栄養方法を尋ね、身長・体重を計測し、診察します。私は赤ちゃんの健診で診察室に入ってきた方には全員参加してもらいたい (一言しゃべってもらいたい)ので、お兄ちゃん、お姉ちゃんに「何歳?」「赤ちゃんかわいい?」と聞いてみたりしますが、 たまに少しやきもちを焼いているのか、「赤ちゃん嫌い」というお返事もあります。お父さん、おばあちゃんにも 「何かご質問ありますか?」と診察の最後にうかがいます。その中で多い質問に「赤ちゃんはいつごろから目が見えるようになりますか?」というものがあります。

 赤ちゃんは、生まれた時からすでに目が見えています。 今から50年前の心理学者の実験で、新生児は輪郭のはっきりしたものに興味を持ち、 ふたつの違う模様を見せると一方だけをよく見るということから、模様の違いを認識し自分の好みがあることがわかりました。 さらに赤ちゃんに普通の顔とつぶれた顔の絵を見せると、普通の形の顔に注目することがわかりました。赤ちゃんは人の顔を好んで見ます。

 しかし、なぜ赤ちゃんが見えているということに気付きづらいのかというと、 赤ちゃんは近視なので遠くを見る調節能力がないからです。一番よく見える距離が、 25cmくらいと言われています。この距離は、ちょうど授乳の時のお母さんと赤ちゃんの顔の間隔です。 ですから、赤ちゃんの顔を覗き込みながら授乳しているお母さんは、赤ちゃんと目と目が合うことを意識することがよくあると思います。 お父さんから赤ちゃんの視力についての質問が多い理由は、このあたりにありそうです。

 多くの自治体でブックスタートは生後3~4か月頃に実施されますが、 その頃の赤ちゃんの視力は0.02程度で、目の前で動くものを追います。 25cm、はっきりした輪郭、人の顔などのいくつかのポイントを頭に入れていただくと、 絵本を一緒に楽しめる機会が増えると思います。もし絵本に赤ちゃんの興味がなかなか引き寄せられないようでしたら、 顔をしっかりのぞき込んでお話してください。赤ちゃんは人の顔、とりわけよく動く目と口が大好きで、夢中で見つめてくれます。 「顔」が絵本となっての読みきかせです。

第4回 『指さしが予言するもの』

 天上天下唯我独尊。これはお釈迦様が誕生するとすぐに四方に七歩歩み、 右手で天を指し左手で地を指して唱えたといわれる言葉です。ではごく普通の赤ちゃんは?というと、 生後9か月頃から指さし行動がみられるようになります。

 家族にとって子どもの言葉の発達は重大な関心事です。1歳児健診では「言葉の発達が遅いのでは?」という相談をよく受けます。 この時期は個人差が大きくなってきます。運動発達でも、小走りする子もいれば伝い歩きもようやくという子もいます。言葉も同様です。 「ワンワン キタ」などの二語文を今にもしゃべり出しそうな子から、「アーウー」の子まで様々です。特に男の子は口が重く、 ペラペラとよく口を動かす女の子を身近に見た時の、無口な男の子を持つ親のあせりは尋常ではありません。このような時、 私は「お子さんは“指さし”しますか?」と尋ねます。母子健康手帳の1歳の記録の欄に「バイバイ、コンニチハなどの身振りをしますか?」 という質問が載っていますが、これも“指さし”と同じ発達の状態を尋ねています。

人は口から言葉が発せられる前に伝達機能が発達します。伝達機能とは、ある事を他の人に伝えようとする働きです。 お母さんが「バイバイしましょう」と言うと赤ちゃんがバイバイするのは、「身振りで表した言葉」で人に自分の思いを伝えるものです。 指さしもこれと同様に指でさし示して人に伝えようするのです。このような身振りや指さしが赤ちゃんに認められると、言葉が口から出て来る時期も近いのです。 意味のある言葉をしゃべらずにいる赤ちゃんの保護者に「指さしをするなら直にお話しますよ」とお伝えすると、とても安心します。 乳幼児健診での保護者へのアドバイスで大事なことは、ここから少し先の赤ちゃんの発育発達の見通しをつけてあげることです。 いわば成長の近未来予言でしょうか。

絵本を読んでいると、赤ちゃんが一心にあれこれと本に描かれているものを指さしていることに気づく時があると思います。 これは赤ちゃんが読み手に、言葉にならない言葉で自分の思いを伝えようとしている時です。絵本は「身振りで表した言葉」 を発する機会をたくさん生み出してくれます。読み手も身振りを交えながらの会話を楽しんでください。

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